富山地方裁判所 昭和56年(ワ)98号 判決 1982年11月26日
原告(反訴被告、以下単に原告という) 小西憲三
<ほか三名>
以上四名訴訟代理人弁護士 奈賀隆雄
同 本林譲
同 青木武男
同 千葉睿一
同 菊地裕太郎
被告(反訴原告、以下単に被告という) 小泉敏久
右訴訟代理人弁護士 若杉幸平
主文
被告は、
原告小西憲三に対し、別紙物件目録(一)記載の土地に立入り、同原告が別紙設計図(一)ないし(八)に基づいて行う別紙物件目録(二)1記載の建物の建築工事を妨害する一切の行為を、
原告藤江武憲に対し、別紙物件目録(一)記載の土地に立入り、同原告が別紙設計図(一)ないし(八)に基づいて行う別紙物件目録(二)2記載の建物の建築工事を妨害する一切の行為を、
原告室四郎に対し、別紙物件目録(一)記載の土地に立入り、同原告が別紙設計図(一)ないし(八)に基づいて行う別紙物件目録(二)3記載の建物の建築工事を妨害する一切の行為を、
原告株式会社シャルムに対し、別紙物件目録(一)記載の土地に立入り、同原告が別紙設計図(一)ないし(八)に基づいて行う別紙物件目録(二)4記載の建物の建築工事を妨害する一切の行為を、
それぞれしてはならない。
原告らの本訴その余の各請求及び被告の反訴各請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は本訴反訴を通じて被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告は、別紙物件目録(一)記載の土地に立入り、原告らが別紙設計図(一)ないし(八)に基づいてなす鉄骨造建物の建築工事を妨害する一切の行為をしてはならない。
2 被告の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は本訴反訴を通じて被告の負担とする。
二 被告
1 原告らの本訴請求を棄却する。
2 被告に対し
(一) 原告小西憲三は別紙物件目録(二)1記載の建物を収去して別紙物件目録(一)1記載の土地を
(二) 原告藤江武憲は別紙物件目録(二)2記載の建物を収去して別紙物件目録(一)2記載の土地を
(三) 原告室四郎は別紙物件目録(二)3記載の建物を収去して別紙物件目録(一)3記載の土地を
(四) 原告株式会社シャルムは別紙物件目録(二)4記載の建物を収去して別紙物件目録(一)4記載の土地を
それぞれ明渡せ。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じて原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 本訴請求原因
1 別紙物件目録(一)1ないし4記載の土地(以下、各土地を一括して「本件土地」といい、個々の土地を「本件1の土地」のようにいう。)は被告の所有であるところ、原告小西は本件1の土地を、原告藤江は本件2の土地を、原告室は本件3の土地を、原告株式会社シャルム(以下「原告シャルム」という。)は本件4の土地を、それぞれ建物所有の目的をもって被告から賃借している。
右賃貸借は、はじめて非堅固建物の所有を目的とするものであったが、借地条件変更の裁判(富山地方裁判所昭和五〇年(借チ)第一号、昭和五四年二月七日決定、同年六月二〇日抗告棄却)により堅固な建物の所有を目的とするものに変更された。
2 ところで、富山市は、昭和四九年一二月二三日、本件土地を含む富山市総曲輪三丁目四番の区域を都市計画法に基づく高度利用地区に指定してその旨の告示をし、建築面積の最低限度を二〇〇平方メートルと定めた。そのため原告らは各自単独では借地上に堅固な建物を建築することができなくなった。
3 そこで、原告らは、協議の結果、共同して一棟の建物を建築し、内部をそれぞれの借地の範囲に合わせて縦割型に区分し、自己の借地上の区分建物部分を建物の区分所有等に関する法律(以下「建物区分所有権法」という。)に基づいて各自所有することとした。
右共同建物の区分所有に関する具体的内容は、別紙設計図(一)ないし(八)記載のとおりで、原告小西は本件1の土地上に一階から四階までの構造上利用上独立性を有する専有部分を所有し、原告藤江は本件2の土地上に、同室は本件3の土地上にそれぞれ一階から三階までの右同様独立性を有する専有部分を所有し、原告シャルムは本件4の土地上に一階から五階までの右同様独立性を有する専有部分を所有することとし、しかも各自の縦割の区分所有建物部分と隣接する他の原告のそれとの間は、借地境界線上に直立する隔壁をもって仕切られるように設計されている。
原告らはそれぞれ、右建築計画に従い、昭和五四年八月二〇日、清水建設株式会社と建築工事請負契約を締結し、昭和五六年五月二一日、建築確認を得て、建築工事に着工した。
4 原告らがこのような建物を建築し、それぞれの借地の範囲内において自己名義の区分建物を所有することは、あたかも借地上に一棟一戸の建物を建築所有する一般の土地利用の場合と何ら異なるところがなく、各自の借地権に基づく使用収益権能の正当な行使として許容されるべきである。
5 しかるに、被告はこれを争い、原告らの前記工事の施行を妨害しようとしている。
6 よって、原告らは、被告に対し、賃借権に基づき、被告が本件土地に立入り原告らが別紙設計図(一)ないし(八)に基づいてなす鉄骨造建物の建築工事を妨害する一切の行為をしないことを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1及び2項の事実は認める、同3項のうち原告らが建物の建築工事に着工したことは認めるが同項その余の事実は知らない、同4項は否認する、同5項の事実は争う。
三 反訴請求原因及び抗弁
1 本訴請求原因1項のとおりである。
2 原告らは、昭和五六年一一月二〇日、本件土地上に別紙設計図(一)ないし(八)のとおり、別紙物件目録(二)記載の建物(以下、一棟の建物を「本件建物」といい、個々の専有部分を「本件1の建物のようにいう。)の建築を完成し、その保存登記をなした。
なお、本件建物は、建物区分所有権法によって各人の有する借地上に存する部分を専有部分とする旨の区分所有登記がなされており、原告小西の専有部分は本件1の建物、原告藤江の専有部分は本件2の建物、原告室の専有部分は本件3の建物、原告シャルムの専有部分は本件4の建物である。
3(1) 原告らが建築している建物は本件1ないし4の土地の、四つの借地上にまたがる一棟の建物であるところ、そのような建物の建築は各自の有する借地権の範囲を超えるものとして許されない。
そもそも、被告と原告らとの借地契約は相互に何の関連性も持っていなかったものであるところ、そこに一棟の建物を建てることになれば借地人相互間に関連性が生じてくる。つまり、各人が他人の借地権の存在を前提にし、相互に依存しているものであり、いわば借地権の相互転貸に準じる関係が生じている。こうしたことは地主の同意なしには認められない。
(2) 原告藤江、同室の各専有部分の間には基礎・柱等は一切なく建物本体としては全く一体となっており、ただ単に内装上の間仕切りを設けているにすぎない。したがって、個別的収去は構造上絶対に不可能である。
原告小西、同シャルムの各専有部分は、個別的収去が物理的に不可能といえないにしても、基礎・柱・壁を共用していることからやはり相互に他の賃借権の存在を前提にした建物といえる。
(3) 個別的収去が不可能となれば、各借地人に契約違反があった場合にも、契約解除・建物収去・土地明渡請求が事実上不可能ということになり、これは地主にとってきわめて不利益なことである。
また、収去請求が不可能であれば建物区分所有権法七条の売渡請求権が認められているから不利益にならないという議論もあり得るが、時価による買収といっても地主は結果的に不必要なものを買わされることになる。更に借地法では契約違反の借主に対しては建物買取請求を認めず、無条件で明渡を認めていることに比しても、地主にとって不利益である。
(4) したがって、原告らの建物建築は、地主の承諾がなく法律上違法であるうえ、その結果被告に不当な損害を及ぼすおそれがあり、被告との関係では正当な権利の行使とはいえない。
(5) 被告は、原告らに対し、昭和五七年二月二日に原告らに送達された本件反訴状をもって、賃借権の無断転貸並びに賃貸人に対する著しい背信行為を理由として本件土地の各賃借部分についての賃貸借契約をそれぞれ解除する旨の意思表示をした。
(6) よって、被告は、原告らに対し、賃貸借契約の終了に基づき、それぞれの建物を収去してそれぞれの土地を明渡すことを求める。
4 なお、原告らは、本訴の前提となる仮処分事件の判決確定後、右判決で認容された建物と異なる構造の建物を建築し、後日請求の趣旨を変更したものであって、信義則に反する。
四 反訴請求原因及び抗弁に対する認否及び反論
1 反訴請求原因及び抗弁1、2項の事実は認める。
2 抗弁3項(1)ないし(4)の主張は争う。
本件土地については都市計画法による高度利用地区の指定がなされているから、各原告らの区分所有の建物部分について収去の個別的執行をなしたとしても、その対象である建物部分の跡地に堅固な建物を建築することは不可能でわずかに容易に移転または除却可能な低層の簡易建物を建築しうるにとどまり、右土地につき経済的に効率の高い利用を図ることは望めない。又収去の個別的執行が不能の場合にはその代償として建物区分所有権法七条に基づき区分所有権売渡請求権を行使することにより、地上建物部分を取得し敷地をより効率的に利用する方法が保障されている。したがって仮に各原告らの区分所有の建物部分に対する収去の個別執行ができないとしても、被告にとって必ずしも不利益とはいえない。
五 再抗弁
前記反訴請求原因及び抗弁に対する反論2項の事実に加えて、左記諸事情を考慮すると、本件においては背信性がなく被告において本件共同建物の建築に異議を述べ、あるいは阻止行動に出ること及び賃貸借契約の解除は信義誠実の原則に反し、権利の濫用として許されない。
1 昭和四七年二月一七日、本件土地が属する富山市総曲輪三丁目四番街区に大火があり、原告シャルム及び同室の建物は全焼し、原告小西及び同藤江の建物は一部焼失した。
右大火の直後、富山市及び富山市商工会議所の協力のもとに、原告らをはじめその他の罹災者である借地人、借家人及び関係地主が組合員となり、富山市総曲輪三丁目四番の全部を施行区域として市街地再開発組合設立に必要な諸準備をすることを目的とする富山市総曲輪市街地再開発準備組合を設立し、原告ら(原告藤江のみは先代藤江友三郎)は借地人として、被告は地主として参加した。
2 ところが、かねてから原告らの借地権は期間満了により消滅したと主張していた被告は、原告らを組合員として参加させることは不当であり、もし強いて参加を認めるならば再開発共同ビルの建設に対し徹底的に反対するとの意見を述べ、同組合の理事会、委員会等に出席しては右趣旨の激越な発言を繰返す有様であった。組合としては手段を尽くしてその翻意を促したが目的を達することができず、そのため一年有半を徒過する結果となった。
そこで原告らは協議の上、これ以上自分らのため社会的に重要な市街地再開発事業の進展が阻害されることをおそれ、大局的見地に立って昭和四八年一一月一日不本意ながら同組合を脱退することとした。
しかしながら、右脱退は原告らの終局的脱退を意味するものでなく、前記大火直後に被告から富山地方裁判所に原告らを被告として提起された本件土地に関する建物収去土地明渡等請求事件(原告らからも借地権確認の反訴を提起)において原告らが勝訴し、原告らの借地権の存在が確認された暁には組合に復帰し、組合員として事業に参加するといういわば条件付の脱退であり、この点につき組合との間に諒解が成立していた。
3 このような事態の推移の間に、富山市は都市計画高度利用地区決定の前提として昭和四九年一〇月三日その都市計画案を公告して公衆の縦覧に供するとともに、これに対し利害関係人から市当局に対する意見書の提出が行われ、原告らも利害関係人として(原告らは借地人として市の権利者名簿に登載されていた)同月一二日付をもって意見書を提出し、その内容として、当時原告らが当面していた借地権確認訴訟事件の勝訴判決が適切な時限内になされるか否かの不確定要素を危惧しながらも、一応高度利用地区の決定に賛意を表し、市街地再開発事業に対する参加が阻止されないよう市当局の配慮を要請する旨の意見を述べた。
また、その直後になされた富山県の市街地再開発事業に関する都市計画案の公告に対しても、原告らは意見書を提出し、自分らの借地部分を除外した右都市計画案の不当性を強調するとともに、この部分を包含した都市計画案に変更するよう意見を述べた。
4 かくして、富山市は都市計画法に基づき昭和四九年一二月二三日本件土地を含む富山市総曲輪三丁目四番面積約〇・五ヘクタールを区域として都市計画高度利用地区の決定をし、その旨の告示をした。そして、翌二四日には右高度利用地区内の原告らの借地部分を除外したその余の地区を施行区域として都市再開発法による市街地再開発事業に関する都市計画を決定しその旨の告示がなされた。右市街地再開発事業に関する都市計画は、後のいわゆる西武百貨店再開発共同ビルを建設する計画を内容とするものである。
かくて、右二つの告示がなされた時点において、原告らは、これらの告示が取消されない限り、市街地再開発事業に参加して再開発共同ビルに入居する機会を失い、しかも自己の借地上に高度利用地区決定の制約のみが残存する結果となった。
5 これより先、原告らと被告を除外したその余の組合員によって設立された新準備組合の運営のもとで市街地再開発の事業は順調に進展し、前記告示を経たうえ、昭和五〇年二月いわゆる富山西武百貨店再開発共同ビルの建設を目的とする富山市総曲輪地区市街地再開発組合が発足し、同年四月同ビル建設の着工、昭和五一年七月ビル完成の運びとなり、結局、前記訴訟事件の判決は、原告らが新準備組合、右市街地再開発組合へ復帰ないし参加することの可能な時限内にはなされず、その結果、原告らが再開発共同ビルに入居することは不可能となり、ただ本件土地に対する高度利用地区の決定のみが残ることになってしまった。
6 本件土地を含む高度利用地区の決定がなされた時点において、原告らが、結果的に自己の不利益に帰することになった右決定に対し、その取消を求める等の法的措置を講じることは理論的には可能であったとしても、原告らは左記(一)ないし(五)の諸事情を考慮してこの挙に出ることを断念せざるを得なかった。
(一) 原告らは、同決定に先立ち、入居可能な再開発共同ビルの建設を期待して市当局に対し予め同決定に対する同意の意思表示をしていたこと
(二) 当時、原告室と同シャルムの各店舗は、前記大火後の仮設建築物の許可期限が切れていて、市当局から再三にわたり除却の勧告を受け、わずかにその好意的な計らいによって除却の強制執行を免れている状態にあったので、その市当局を相手どって法的抗争を試みることは、弱者の立場にある右原告両名を含む原告らとしては事実上困難であったこと
(三) 地元商店主で構成する総曲輪通り商盛会も本件土地部分に対する高度利用地区の決定を解除して本件土地上に従前の規模と態様の個別的建物を持続することに反対し少なくとも民間方式の共同ビルの建設を強く要望していたこと
(四) 当時、原告らは法律専門家の意見に基づき、原告らによる民間方式の共同ビルの建設が必ずしも不可能ではないとの認識に立っていたこと
(五) 原告らが市当局に対し本件借地部分に対する高度利用地区の決定に対する解除の可能性について内意を打診したところ、市当局にはその意向は全くなく、解除に対する抵抗が強かったこと
以上の諸事情のもとにおいては、原告らが本件土地部分に対する高度利用地区の決定を解除するための法的措置を講じなかったとしても、これを是認し得る客観的事情が存在したとみるべきである。
六 再抗弁に対する反論
1 富山市総曲輪市街地再開発準備組合は、都市再開発法の規定する組合設立のための準備行為を行う任意組合である。
ところがこの準備組合の設立について被告は何ら知らされるところなく、昭和四七年五月頃やっと加入した。被告としてはそのような準備組合ができるのであれば当初から参加させてほしかったが、被告が加入した時には既に組合の運営についての骨子が出来上がっており、それを一方的に押しつけられることについて被告は不満であった。
2 右準備組合での協議の過程において、被告は、私人が中心となった組合施工では運営が不公平になりやすいため、公平さを担保する意味においても公共団体の参加する組合施工にしてもらいたい旨強調した。
また、組合員の資格について全く審査がなされなかったことについても資格審査を十分行うよう主張していたのである。
3 昭和四八年一一月一七日右組合は解散し、新たに新準備組合が設立されたが、これには原告ら、被告双方とも加入しておらず、この段階で双方が再開発組合に加入する可能性がなくなったというべきである。
なお、原告らが旧準備組合を脱退したことに被告は関与しておらず、それが条件付脱退であったことについて被告は承知していない。
4 以上のような状況のもとで昭和四九年一二月都市計画高度利用地区の決定と市街地再開発事業に関する都市計画の決定がなされたが、この二つの決定は、本件土地は高度利用地区に含まれていながら再開発事業計画には含まれないという、不合理な相矛盾するものであった。
しかし、右決定が原告らに対し不当に権利を制限するものであるならば、原告らがこれに対して法的手段で救済を求めるべきであったのに漫然これを放置していたため、今日のような結果に至ったというべきである。
5 本件土地が再開発計画に組入れられなかったため、原告らが借地上に独自に堅固の建物を建てることが出来なくなったことは行政当局の行政行為によるものであり、被告に責任はない。仮に被告が反対の意思を表明していたとしても、再開発施行地区内の宅地所有者はすべて強制的に組合員になるのであるから法的には本件土地を再開発施行地区とすることは可能であり、原告らは不服があるなら行政当局を相手として法的措置を講じるべきであった。
第三証拠関係《省略》
理由
第一本訴について
一 請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》を総合すれば、原告らは共同して本件1ないし4の各土地にまたがる一棟の鉄骨造建物を建築し、内部をそれぞれの借地の範囲に合せて縦割型に区分し、自己の借地上の区分建物部分を建物区分所有権法に基づいて各自所有することを企画し、その具体的内容は最終的に別紙設計図(一)ないし(八)記載のとおりとなったこと、右に従い原告らは、昭和五四年八月二〇日清水建設株式会社とそれぞれ工事請負契約を締結し、同五六年五月二一日建築確認を経て建築工事に着工したことが認められる。
三 本件建物の建築により、原告らが借地権の相互転貸をなしたことになるか否かについて判断する。
《証拠省略》を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
1 本件建物は、原告各自の専有部分がそれぞれの賃借地の上下空間内に収まるよう設計されている。しかし各専有部分間の隔壁や柱、基礎等共用部分が存在する。
2(一) 原告小西と同藤江の各専有部分の界壁は、一、二階はALC版と鉄筋コンクリート壁で、三階はALC版で区画され、耐火構造的に密閉された区画になっている。
(二) 原告藤江と同室の各専有部分の界壁は、ALC版で区画されている。
(三) 原告室と同シャルムの各専有部分の界壁は、一、二階はALC版と鉄筋コンクリート壁で、三階はALC版で区画されている。
3 基礎は、原告小西専有部分と同藤江部分及び同室部分と同シャルム部分の各間の柱の下にあり、原告藤江部分と同室部分間には柱も基礎もない。
4(一) 原告小西部分及び同シャルム部分は、それぞれそれのみの個別的な解体が物理的には可能であり、残った建物も都市計画法に違反しない。
(二) 原告藤江部分及び同室部分は、それぞれそれのみの個別的な解体が不可能であるうえ、残った建物は違反建築物となる。
(三) 原告藤江部分及び同室部分の同時解体は可能であるが、残った建物は違反建築物となる。
以上認定の各事実にてらせば、原告らは、本件建物の建築により、それぞれの賃借権を基礎として相互に一種の転借権を設定したことになるといわざるを得ない。
四1 そして、このような場合、原則として賃貸人の承諾を要するものというべく、背信行為と認めるに足りない特段の事情がない限り、承諾のない相互転貸は借地権に由来する権利の行使と認められないものと解すべきである。
本件において、被告は借地の無断相互転貸として違法であると主張し、原告らは、その主張する諸事情のもとにおいては本件建物の建築は原告らが有する借地権に基づく土地使用権能の正当な行使であると主張するので、以下この点について判断する。
2(一) 本件建物は原告ら各自の専有部分がそれぞれ賃借地の上下空間内に存し、各専有部分の界壁は耐火構造的に密閉されていること、本件土地上に共用部分が存在することは前記三で認定したとおりである。しかし、《証拠省略》によればその共用部分は、空間を効率的に利用したり建築費を節減するためのものではなく、一棟の建物が存立するうえで建築工法上必要な共用部分及び専有部分を区分するために必要な共用部分であって、本件建物の構造上最少限度必要なものに限られているものと認められる。
(二) 本訴請求原因2項の事実は当事者間に争いはない。《証拠省略》を総合すれば、本件土地は右高度利用地区の決定により建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合の最低限度を一〇分の三〇、建築物の建築面積の最低限度を二〇〇平方メートルと定められたこと、一方富山県知事は、昭和四九年一二月二四日、本件土地を除いた富山市総曲輪三丁目四番を区域とする総曲輪地区市街地再開発事業に関する都市計画決定をしその旨の告示がなされたことそのため原告らが単独では各借地上に建物を新築することが許されなくなり一棟の建物でなければ法規に適合せず、仮に三者のみで建築した場合あとの一人は永久に建物を建てることが不可能なので原告ら全員で一棟の建物を建築するよりほか、原告ら全員が賃借地を建物所有のために使用する方法はないこと、その際個別の建物を連結したようなものは個別に撤去出来るので違反建築物になり得る可能性があり許されないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) 《証拠省略》によれば、次の各事実が認められ(る。)《証拠判断省略》
(1) 昭和四七年二月一七日、本件土地を含む富山市総曲輪三丁目四番街区を中心として大火が発生し同街区一体の殆んどの建物が罹災し、原告シャルム、同室所有の建物が全焼し、原告藤江先代所有の建物が半焼し、原告小西所有の建物も一部焼失した。
(2) 一方原告らの本件各土地に対する賃貸借契約は二〇年の契約期間が昭和四五年五月末日をもって満了することとなっていた。そこで被告は原告らに対し、昭和五四年一一月、内容証明郵便をもって契約の更新を拒絶する旨通知し、次いで右期間満了後の昭和五五年六月、内容証明郵便をもって本件各土地の継続使用に対して異議を述べ、建物を収去して土地を明渡すよう求めた。
そして前記火災により原告らの建物が焼失したことを切っ掛けとして、被告は、昭和四七年二月、富山地方裁判所へ原告らを相手どり本件土地につき建物収去土地明渡の訴を提起し、原告らも賃借権存在確認を求めて反訴を提起した。審理の結果、昭和五〇年六月一九日、被告の本訴請求を棄却し、原告らの反訴請求を認容する第一審判決が言渡された。
被告は、右判決を不服として名古屋高等裁判所金沢支部に対し控訴を申立てたが、昭和五二年九月七日、控訴棄却の判決が言渡された。
被告は、右判決を不服として最高裁判所に対し上告を申立てたが、昭和五三年四月、上告棄却の判決が言渡され、原告らが本件土地に対し賃借権を有することが確定した。
(3) ところで、市当局の指導もあって、前記四番街区の復興は市街地再開発事業として行い共同ビルを建設しようとの意見が強まり地元商店主及び関係地主による再開発協議会が結成され、同年一〇月、富山市総曲輪市街地再開発準備組合が発足した。
右組合には、原告らと被告の双方がその構成員として参加していたが、被告は原告らの借地権を否定し原告らが市街地再開発事業実施区域内の土地の賃借権者として準備組合に参加することは絶対に容認できず、原告らが参加した組合の活動には協力し得ず原告らを加えての共同ビルの建設には絶対反対である旨を言明し、組合側の妥協案にも耳を貸さず、冷静な話合いを困難にする態度に終始したため、準備組合の本来の活動が停滞するに至った。そして、このままでは市街地再開発事業の進展が阻害され、商店街全体の復興が遅延してその利益を害するおそれが生じ、さりとてこのような紛争を内包したまま市街地開発事業を遂行することも事実上困難という事態にたち至った。
そこで、関係者が協議した結果、本件土地を当初予定した市街地再開発事業実施区域から除外し、原告ら及び被告を除いたメンバーにより縮小された区域における市街地再開発事業を目的とする新準備組合を結成し、原告らと被告の間の前記明渡訴訟が適当な時期までに結着をみた場合には原告らも新準備組合又はこれを母体とする市街地再開発組合に加入させることとし、当面は原告ら及び被告を除外して市街地再開発事業を推進するとの提案がなされ、原告らとしても商店街全体の利益を考えると右提案に同意せざるをえなかった。こうして昭和四八年一一月、従前の再開発準備組合は解散し、原告ら及び被告を除外して新準備組合が結成され、市街地再開発事業の準備は急速に進展した。
そして、新準備組合を母体とした富山市総曲輪地区市街地再開発組合が富山県知事の認可を得て設立され、前記高度利用地区の決定及び総曲輪地区市街地再開発事業に関する都市計画決定がなされ、同組合によって再開発共同ビルの建設が推進され、昭和五一年七月、共同ビルが完成し、富山西武百貨店として開業し、罹災前に富山市総曲輪三丁目四番街区に店舗を有していた営業者のうち原告らを除く殆んどの者が右共同ビルに入居して営業を開始した。
(4) 以上のとおり、前記原告らと被告間の訴訟における判決の確定が前記共同ビルの完成後となったため、原告らは、市街地再開発組合に復帰することができず、終局的には再開発事業から取残され、本件土地は市街地再開発区域から除外されたままとなった。
ところで、都市再開発法七三条四項が借地権の存否について争いがある場合でも存否が確定するまではそれが存在するものとして権利変換計画を定めるべきものと規定していることに照らせば、原告らが市街地再開発組合に参加することに法律上の支障はなかったというべきである。しかし他方前記認定の事実に照らせば、事実上は、被告が、原告らが参加しての都市再開発事業の施行に激しく反対し、事業の施行に支障が生ずるおそれがあったため、関係者らが、とりあえず本件土地を除外して事業を進めようとし、又原告らも商店街の復興とその利益のため、これに同意して準備組合から身を引かざるを得ない結果となったものである。そして後に原告らが本件土地に賃借権を有することが判決により確定したことに照らせば結局、本件土地が市街地再開発事業の実施区域から除外されたことの主たる原因は被告が自己の主張に不当に固執したことにあるものといわざるを得ない。
(四) 《証拠省略》を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
(1) 本件土地に対する高度利用地区の指定がなされた当時原告室及び同シャルムの仮店舗は、大火後の仮設建築物の許可期限を三回にわたり延期したうえ、その期限が切れ、市当局から再三除却の勧告を受け、わずかにその好意的な計らいにより除却の強制執行を免れている状態にあった。
(2) 原告らが、市当局に対し、本件土地に対する高度利用地区の指定の解除の可能性につき内意を打診したところ、市当局にはその意向は全くなく、解除に対する抵抗が強かった。
(3) 地元商店主で構成する総曲輪通り商盛会は、本件土地が総曲輪通り商店街にとって大切な玄関口であるため、本件土地に対する高度利用地区の指定を解除して本件土地上に従前の規模と態様の個別的建物を持続することに反対し、少なくとも民間方式の共同ビルの建設を強く要望していた。
(4) 原告ら自身も、当初は、入居可能な再開発共同ビルの建設を期待して、市当局に対し予め高度利用地区指定に対する同意の意思表示をしていた。
(5) 当時、原告らは、法律専門家の意見に基づき、原告らによる民間方式の共同ビルの建設が必ずしも不可能ではないとので認識にたっていた。
右認定の事実によれば、原告らが本件土地に対する高度利用地区の指定について、これを解除するための法的措置を講じることは理論的には可能であったとしても、事実上困難な状況にあり、原告らが不服申立等の法的手続による救済を求めなかったこともやむをえない面があったといわなければならない。
3 以上認定の各事実を総合すれば、本件建物建築に伴う土地使用が実質的に借地の一部転貸になるとしても、その転貸には背信性がないというべきである。
さらに、右のような事情のもとで、本件建物の建築が賃貸人の承諾がない以上絶対になしえないものとすれば、原告らは事実上賃借権の放棄を強いられることになり、被告が原告らの市街地再開発事業への参加を妨害したことが、前記土地明渡訴訟で実現できなかった本件土地の取戻しを結果的に成功させることになる。また、高度利用地区の指定は私権に対し一定の制限を課すものであるが、土地について賃貸借契約が存するときはその制限は賃貸人と賃借人との関係で公平に作用すべきものであり、実質的な不利益が一方に偏するような結果になるのは相当でないと解される。
そして、本件土地についての原告らと被告の間の各賃貸借契約が建物所有の目的であることをあわせ考えれば、被告は、高度利用地区の指定による制約が原告らに対する関係でその及ぼす影響ができるだけ少なくなるよう配慮すべき信義則上の義務を負うというべきで、被告は原告らが本件建物を建築するのを受忍し、さらに協力すべき義務があるといわなければならない。
したがって、本件建物の建築による相互転貸は背信性がないにとどまらず違法性を欠き、全体として賃借権に由来する権利の行使たる性格を有するものと解される。
4 被告は、原告らに一棟の建物の建築を許すとすれば、仮に原告らの一人につき賃借権が消滅した場合に、建物の一部収去が不可能なため当該賃貸土地の返還を受けることができなくなり、このような不利益が相手方の意思に基づかないで課せられるのは不当である旨主張する。
しかしながら、右不利益は建物区分所有権法七条に基づく区分所有権売渡請求権を認めることによってある程度緩和されるし、なお地主は不必要なものを買わされるという不利益が残存することを否定できないとしても、それは高度利用地区の指定という公法による私権の制限が賃貸借契約関係を媒介として被告に対し右の形で発現したものとみるべきであるから、被告の意思に基づいていないことを特に異とするに足りない。
五 《証拠省略》によれば、被告が原告らの前記工事の施行を妨害しようとしていることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
六 以上のとおりであるから、原告らがそれぞれ本件各建物の建築工事をなすことは借地権の適法な行使というべく、被告は本件土地に立入り右各工事を妨害してはならない義務がある。
第二反訴について
一 反訴請求原因及び抗弁1、2項の事実は当事者間に争いがない。
二 本訴三、四項認定のとおり、本件建物の建築は賃借地の相互転貸になるとしても、背信性がないのであるから、本件土地の賃貸借契約の解除の原因にはあたらないと解するべきである。
三 よって、その余の点について判断するまでもなく、反訴請求は失当である。
第三結論
ところで原告らは、本訴において原告ら各自の建物の建築工事の妨害の禁止の外他の原告らの建物の建築工事の妨害の禁止をも求めているところ、借地権に基づく建築工事妨害禁止の請求は自己の借地上の自己の建物の建築工事の妨害禁止の禁止の請求のみに限られ、他人がその借地上に建物を建築するにつきその建築工事の妨害の禁止までも求められるものではない。よって原告らの本訴各請求は、それぞれ各自の建物の建築工事の妨害の禁止を求める限度で理由があるのでその限度で認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、被告の反訴各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九二条但書を適用し主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺﨑次郎 裁判官 宮城雅之 髙部眞規子)
<以下省略>